A&A INSIGHTS
顧客にモデルを選ばせるか、既定で固定するか:設定項目を増やす前に決める
AIサービスでモデルや詳細設定を顧客に開くか、自社の評価で既定を固定するかを、提供開始前に決める基準を示します。LindyとGensparkの公開事例をもとに、評価責任の移転として整理します。
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この記事の要点
モデルや詳細設定を顧客に開くかどうかは、機能の豊かさではなく「どちらが良いかを自社の評価で言えるか」だけで決まります。言えるなら既定として固定し、言えないなら選択肢を出す前に評価を作る。設定画面に選択肢を並べることは自由度の提供ではなく、評価する仕事を顧客に渡すことです。しかも渡せるのは判断だけで、出力が業務に合わなかった結果は自社に戻ってきます。
設定項目を開くかは、良し悪しを自社の評価で言えるかで決まる
A&Aの考え方
モデルや詳細設定を顧客に開くかどうかは、機能の豊かさではなく「どちらが良いかを自社の評価で言えるか」だけで決まります。言えるなら既定として固定し、言えないなら選択肢を出す前に評価を作る。これが順序です。設定画面に選択肢を並べることは自由度の提供ではなく、評価する仕事を顧客に渡すことだからです。
A&Aの考え方
ここでの評価は、公開ベンチマークの順位ではありません。自社が実際に売っている仕事を十数件から数十件ほど写し取り、それぞれに「何を合格と呼ぶか」を一文で書いた一覧のことです。判断に使う問いは一つで足ります。いまこの設定を既定にした理由を、顧客に一段落で説明できるか。説明できないなら、その設定はまだ顧客に出せる状態になっていません。
選択肢を出すことは、評価の仕事を顧客に渡すこと

A&Aの考え方
設定画面にモデルAとモデルBを並べた時点で、自社は顧客に一つの問いを渡しています。あなたの業務ではどちらが良いか、という問いです。これに答えるには、両方を自分の仕事で走らせ、出力を見比べ、合否を決める必要があります。顧客はその作業をしません。名前の知名度、価格、あるいは画面の並び順で選びます。
A&Aの考え方
渡せるのは判断だけで、結果は戻ってきます。顧客が選んだモデルの出力が業務に合わなかったとき、届くのは「このモデルは精度が低い」という報告ではなく「このサービスは使えない」という問い合わせです。選ばせたことは免責になりません。つまり選択肢を出して減るのは自社が決断する負担だけで、品質の説明責任と調査の手間はどちらも残ります。むしろ顧客ごとに挙動が分かれるぶん増えます。
仮想例
仮の例で考えます。問い合わせメールを要約して担当者へ振り分けるサービスを一人で提供しているとします。顧客が十社あり、設定画面にモデルを三つ並べたとすると、再現の相談が来たときに確認しうる組み合わせは三十通りになります。一人で保てる数ではありません。既定を一つに固定すれば確認対象は十通りに戻り、品質の説明は一度書けば全社に使えます。これは数え方を示すための仮の計算で、実測値ではありません。
| 顧客の問い | 自社が答えるために必要なもの | 選択肢を出した場合に起きること |
|---|---|---|
| 「どのモデルを使っていますか」 | 既定のモデル名と、いつ時点の判断か | 答えは変わらない。開示だけで足りる |
| 「こちらで選べますか」 | 自社の代表的な依頼での合否の比較 | 比較を持たない顧客が、名前や並び順で選ぶ |
| 「別のモデルのほうが精度が高いのでは」 | 自社の業務条件で比べた結果と、その条件の明示 | 顧客ごとに挙動が分かれ、再現確認の経路が増える |
| 「調達要件でモデルを指定されています」 | 指定モデルでの合否と、満たせない範囲 | 要件の問題。評価では代替できない |
| 「新しいモデルが出たら切り替えますか」 | 更新の判断条件を先に文章にしてあるか | 顧客ごとに切り替え時期が分かれる |
出典:Lindyは代替を選べるようにしつつ、既定は自社の評価で決めている
出典に基づく事実
Lindy は、AIエージェントを作って定型業務を任せられる自動化プラットフォームを提供している会社です。Anthropic が公開している同社の事例ページは、既定モデルの決め方をこう書いています。after extensive evaluation, Lindy chose Claude as their default model, and while customers can select alternative LLMs, they rarely override Claude。選べる設計にしたうえで、既定は自社の評価で決めている、という順序です。ページは同社の規模を Small と記載しています。
出典に基づく事実
根拠の置き場所も同じページに書かれています。Head of Engineering の Luiz Scheidegger の言葉として、Claude models simply performed better in our evals and use cases。さらに上書きの実態として Almost no one overrides the default LLM、続けて the vast majority of all model calls on the platform are for Claude と記述されています。
A&Aの考え方
この事例から読み取れるのは、選択肢の有無ではなく、既定を誰の評価で決めたかです。選べる設計であること自体が製品を成り立たせているわけではありません。評価を自社で持っているから既定を名指しでき、既定の質が足りているから顧客は上書きしない、という順序になっています。ただし上書きの少なさについては、母数も期間も測定方法もページに書かれていません。ここは当方の読み方として、傾向の記述にとどめます。またページは、選択肢をなぜ残したのかを説明していません。調達要件のためか移行のためかは書かれていないので、ここは推測せず空欄のままにします。
評価軸は「総合的な賢さ」ではなく、自社が売っている仕事
出典に基づく事実
同ページは、評価の軸が何だったかも具体的に書いています。Scheidegger の言葉として better navigate ambiguity in large context windows、そして make better tool calls when dealing with complex workflows such as calendar management, natural language conditions と続きます。カレンダー処理と自然言語の条件指定は、ページが two areas where other models struggled と書く領域です。入れ子の深いデータ構造を扱う場面にも触れています。
A&Aの考え方
並んでいるのは総合的な賢さの指標ではなく、その会社が売っている仕事の条件です。ここが一人や少人数にとって重要な点です。評価を作るというと網羅的な試験を思い浮かべますが、必要なのは自社の主要な依頼を写した狭い一覧で足ります。逆に言えば、自社の仕事の条件を書き出せないうちは、どんな評価も作れません。最初に書くのは試験ではなく、売っている仕事の一覧です。
A&Aの考え方
評価が手元にできたあと、新しいモデルが出たときに乗り換えるかどうかを決める手順は、別の記事に分けています。「AI SaaSのモデル更新を決める条件:ベンチマークではなく顧客の失敗例で判断する」です。本稿が扱うのは、その評価を持つ前に選択肢を出してよいかという、一つ手前の判断です。
出典:Gensparkの「model-agnostic」は、顧客が選ぶ設計ではない
出典に基づく事実
もう一つの事例は Genspark です。同社の Super Agent について、ページは model-agnostic by design, with different frontier models doing different jobs と書いています。重要なのは、この割り当てを誰がしているかです。ページの記述では、各段階でどの道具を呼ぶか、いつ情報を集め直すか、いつ引き返すか、いつ要約して返すかを決めるのはモデルの役割だと書かれています。どのモデルがどの仕事を担うかは、同ページが製品設計の説明として記述しています。
出典に基づく事実
割り当ての具体例として、最も難しい計画問題では fans out to multiple frontier models in parallel and uses Claude to reconcile their plans into one と書かれています。複数のモデルへ並列に投げ、その結果を一つにまとめる役をさらにモデルに持たせる運用です。ページは同社の規模を、エンジニア約50人、束ねている道具150以上と記載しています。
A&Aの考え方
model-agnostic という言葉は、ここでは「顧客が選べる」ではなく「提供側が仕事ごとに割り当てられる」という意味で使われています。この区別は言葉遊びではありません。前者は評価を顧客に渡す設計で、後者は評価を自社に残す設計です。自社の設定画面に選択肢を出す理由として「モデル非依存だから」と書くとき、その言葉は出典が指しているものとは別のことを指しています。
評価は一度で終わらず、繰り返す仕事になる
出典に基づく事実
評価が一度で終わらないことも、同じページから読み取れます。共同創業者で CTO の Kay Zhu は、モデルが各段階の次の手を決める方式を against every new frontier model that came out, roughly every three months, for two years 試したと説明されています。失敗の内容も記録されています。無限ループに入る、同じエラーを繰り返す、そして failed to recognize when it had enough information to stop。
出典に基づく事実
それ以前の構造は、あらかじめ決めた工程を結んだ有向グラフでした。Zhu はそれを it was too rigid、そして it often broke on edge cases と評しています。2025年初めに同じ方式を当時の新しいモデルで試したところ結果が変わった、とページは書いています。同じ設計案に対する答えが、モデルの世代によって変わったという記録です。
A&Aの考え方
ここから見積もるべき費用は、評価を作る一回分ではなく、作り直す回数です。既定を固定するという判断は、モデルが更新されるたびに同じ評価を回す約束を含みます。だからこの記事の結論は「必ず固定せよ」ではありません。評価を保てないなら、保てないと認めるほうが正確です。ただしその場合に出すのも選択肢ではありません。既定を一つに固定し、評価の範囲がどこまでかを書いて出します。選択肢は、評価を持たないことの代わりにはならないからです。なお評価にかかる時間や費用の目安は、当方では示しません。引用した二つのページのどちらにも書かれていないためです。
既定を固定したとき、設定項目の代わりに公開する三行
A&Aの考え方
既定を固定したとき、設定項目の代わりに公開するのは次の三行です。一行目、既定として使っているモデルと、それがいつ時点の判断か。二行目、どの仕事で合否を見たか。網羅的な試験ではなく、自社が主に請けている依頼の種類を挙げます。三行目、顧客側で指定が必要になった場合に何ができて何ができないか。この三行は設定項目より短く、顧客の問いには先に答えます。
仮想例
雛形の文面です。読者の会社が自分の事実で埋めて使う形を示します。「当サービスは2026年10月時点で、要約と振り分けの工程に特定のモデルを既定として固定しています。選定は、これまでに実際に請けた問い合わせ要約の依頼から作った確認用の一覧で、合否を比べて決めました。お客様側でモデルの指定が必要な場合は、指定モデルでの確認を別途お見積りします。対応できない指定については、その範囲を先にご提示します。」これは雛形であり、A&Aの約款でも、当方が測定した結果でもありません。
それでも選択肢を出すべき三つの場合
A&Aの考え方
選択肢を出すほうが正しい場合もあります。三つに絞れます。一つ、調達要件や契約でモデルや提供地域の指定が求められる場合。これは評価の問題ではなく要件の問題で、自社都合では決められません。二つ、顧客のデータ取り扱い方針が提供元ごとに分かれる場合。選ばせているのはモデルの精度ではなく、データの経路です。三つ、仕事の種類ごとに既定が二つあり、その振り分け規則を自社の言葉で言える場合。これは選択肢ではなく、割り当ての開示です。
A&Aの考え方
三つめについて、工程ごとにどのモデルを割り当てるかという設計自体は、本稿の範囲ではありません。それは顧客に開くかどうかとは別の、自社の内部設計の問題です。ここで言えるのは、振り分け規則を自社の言葉で説明できないなら、その割り当てを設定画面に出す段階にはないということだけです。
この決め方が成り立たない場合
A&Aの考え方
限界を先に書きます。引用した二つのページは、どちらも対象企業と提供元による自己記述であり、独立した監査ではありません。とくに、既定をほとんど上書きしないという記述と、呼び出しの大半が Claude だという記述は、母数・期間・測定方法がページに書かれていない社内観測です。Lindy のページに並ぶ成長率や削減率、Genspark のページにある売上の数字も、定義と母集団が示されていないため本稿では使っていません。どちらのページも、選択肢を出すことが有害だとは述べていませんし、既定を固定したことが成長の原因だとも述べていません。その因果は当方も主張しません。
A&Aの考え方
規模の差も残しておきます。Genspark はエンジニア約50人で150以上の道具を束ね、難しい計画問題では複数のモデルへ並列に投げて統合しています。この運用と、それを支える評価の費用は、一人の会社にそのまま移りません。移るのは「割り当ては提供側が決める」という設計の向きだけです。
A&Aの考え方
最後に、本稿が測っていないことです。既定を固定した場合の解約率、受注率、問い合わせ件数への影響を当方は測定していません。これは順序についての主張で、結果の予測ではありません。また、調達要件でモデルを指定される商談が多い市場では、この判断は最初から要件側に寄ります。その場合は、自社の商談でモデル指定がどのくらいの頻度で出ているかを数えるほうが先に効きます。
設定項目を顧客に開くかどうかは、機能をどこまで作るかの話ではありません。どちらが良いかを自社の評価で言えるか、という一点です。言えるなら既定として固定し、その理由を三行で公開する。言えないなら、選択肢を出す前に評価を作る。Lindy の事例が示していたのは選べる設計の価値ではなく、既定を自社の評価で決めていたという順序でした。Genspark の model-agnostic も、顧客の自由ではなく提供側の割り当てを指していました。評価を持たないまま並べた選択肢は、顧客に判断を渡すだけで、結果は自社に戻ってきます。
出典・編集情報
記事の調査で確認した一次資料です。資料の公開・更新時期と、調査時の確認日を分けて記載しています。
- Lindy empowers teams to scale with AI Agents powered by Claude
Anthropic · no date shown on page
確認日 2026-10-05 - Genspark's Super Agent orchestrates 150+ tools with Claude
Anthropic · no date shown on page
確認日 2026-10-05
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調査・執筆・翻訳・編集上の確認にAIを活用しています。資料に基づく事実、A&Aの考え方、仮想例は、それぞれ本文に明記しています。
編集上の確認日: 2026-10-05