新規事業の顧客検証はAI調査で終えない:会って記録する4つの欄
AIの調査で作れるのは会う相手と質問の仮説までで、買うかどうかは会って記録した相手の行動で決まります。
この記事の要点
- AIの調査は仮説まで。会う相手と聞く質問を書き出す
- 使う人の想定は試作を出した後に変わりうるので、試作を出して会う
- 仮説・質問・観測した行動・提案の変更を、4つの欄に分けて記録する
- 買う意思は、資料を見せる・日程を押さえるなど相手の行動で見る

目次
AIの調査は、会う相手と質問の仮説までを作る

A&Aの考え方
新規事業の顧客検証とは、想定した買い手がその困りごとに本当にお金と時間を使うかを、会って確かめる作業のことです。AIの調査が受け持てるのは、その手前の、誰に会って何を聞くかを決める所までです。
A&Aの考え方
AIに公開情報を調べさせると、候補になる会社の一覧、その業界で使われる言葉、困っていそうな場面は短い時間で書き出せます。聞くべき質問や、「この反応が見えたら仮説は外れ」という条件も、先に言葉にできます。
A&Aの考え方
一方で、資料からは決まらないことが3つあります。その会社が今期の予算で払うか。誰が支払いを決めるか。実際に手を動かすのは誰か。どれも相手に会うか、試作を使ってもらうまで分かりません。
仮想例
たとえば見積書づくりを手伝う新規事業なら、AIは「建材を扱う商社の営業が、過去の似た案件を探しながら見積書を作っていそう」という場面までは出せます。その営業が本当に作っているのか、時間をかけているのかは、見積書を見せてもらうまで分かりません。
A&Aの考え方
この記事を書いている Automate & Augment (A&A) は、調査で得るものを「結論」ではなく「次に会う相手の順番」と考えます。次に会う3社の名前と、それぞれについて外れるかもしれない前提が1つずつ書けたら、調査はそこで終えます。
A&Aの考え方
上司や取締役会に「顧客はいるのか」と聞かれた時も、調べた量は答えになりません。答えになるのは、誰に会い、相手が何をしたかの記録です。この記事では、相手が実際にしたことを「観測した行動」と呼びます。
使う人の想定は、試作を出した後に変わることがある

A&Aの考え方
誰が使うかという前提は、調べている間ではなく、試作を出して人が来た後に変わることがあります。AIを開発する米国の会社 Anthropic が公開した2社の顧客事例に、その経過が書かれています。
出典に基づく事実
1社目は、作りたいアプリを普通の言葉で説明すると、そのアプリを作ってくれるサービスの Lovable です。事例によると、創業者は以前から「作りたい物はあるが、コードが書けない」という相談を何度も受けていました。
出典に基づく事実
それでも、創業者が2023年初めに週末の実験として作ったのは、開発者がAIで速く作業するための物でした。誰でも使える形で公開すると、実験は広まりました。ところが使いに来た人は、想定していた開発者ではなかった、と事例は書いています。

出典に基づく事実
2社目は、文章を書く人をAIで手伝うサービスの Lex です。創業者は、書き手や編集者が使う道具は、プログラマーやデザイナーの道具ほど良くないと話しています。チームは当初、変更履歴の扱いにくさなど、画面の操作を直すことに取り組みました。
出典に基づく事実
その後チームは、生成AIで書く過程そのものを良くできる可能性に気付いた、と事例は書いています。AIの機能を出してから24時間で、Lexには25,000件の新規登録があったとされています。この数字の対象範囲や集計の方法は、事例に書かれていません。
A&Aの考え方
A&Aは、Lovableでは誰が使うかという前提が、試作を出して人が来た後に変わったと読みます。相談の声は前から届いていたのに、最初に出した物は開発者向けでした。聞いた話と、出した物に実際に来る人は、別の情報です。
出典に基づく事実
創業まもない会社に出資し、助言してきたポール・グレアムは、2013年7月の文章で、立ち上げの時期に創業者がやる手間のかかる仕事で、最もよくあるのは、利用者を手で集めることだと書いています。利用者が来るのを待つことはできず、出向いて獲得する必要がある、とも書いています。
A&Aの考え方
AIの調査は、出向く先を絞って準備の時間を減らす道具です。出向くことの代わりにはなりません。
仮説・質問・行動・提案の変更を4つの欄に分ける

A&Aの考え方
会った結果は、仮説・質問・観測した行動・提案の変更の4つの欄に分けて書きます。観測した行動とは、相手が実際にしたことです。分けておくと、後から「なぜ提案を変えたか」をたどれます。同じ欄に混ぜると、相手の発言と自分の解釈が数日で区別できなくなります。
A&Aの考え方
仮説の欄には、誰が、どの場面で、今どう対処しているかを書きます。質問の欄には、仮説のどこを確かめる質問かを添え、相手の答えもここに残します。観測の欄には、相手が言ったことではなく、したことを書きます。提案の変更の欄には、対象・範囲・価格のどれをどう変えたかを書きます。
仮想例
たとえば、社内の新規事業チームが、社員十数名の建材商社に見積書づくりの支援を売ろうとしているとします。これは仮想例で、実在の会社ではありません。仮説は「営業の担当が、過去の似た案件を探しながら見積書を作るのに、毎回1時間以上かけている」です。
仮想例
質問は「直近に作った見積書を3件、どの順で作ったか見せてもらえますか」とします。観測では、3件のうち2件は営業ではなく事務の担当が作り、1件は社長が最後に単価を書き換えていました。
仮想例
提案の変更は3つです。対象を営業から事務の担当に移します。単価を決める所は、自動化の対象から外します。社長が最後に確かめる欄を残します。この1件で、使う人と決める人が違うことと、自動化しない方がよい工程が同時に分かります。
A&Aの考え方
この表は、上司や取締役会への報告にもそのまま使えます。「調べた結果こう考えた」ではなく、「この相手がこう動いたので、提案をこう変えた」と1行ずつ説明できるからです。
A&Aの考え方
会った3社とも仮説どおりだった時は、対象が正しかったと決める前に、質問の形を疑います。確かめる質問とは、相手の答えが「はい」でも「いいえ」でも、次にやることが変わる質問です。
買う意思は、相手が時間か権限を動かした行動で見る

A&Aの考え方
買う意思に近いのは、相手が自分の時間か権限を使った行動です。「それは便利ですね」という発言は、相手の予算の順位について何も教えてくれません。発言は質問の欄の答えとして残し、観測の欄には書きません。
A&Aの考え方
A&Aは、次のような行動を観測の欄に書くよう勧めます。社内の資料を見せた。次の日程をその場で押さえた。別の部署の人に話を回した。今の代わりの手段に、すでにお金を払っている。対象外にする範囲を、自分から指定した。
A&Aの考え方
逆に、「資料を送ります」と言われたのに届かないことも、同じくらい役に立つ観測です。動かなかったことも、相手の優先順位を表しています。
出典に基づく事実
出した後の観測を続ける例もあります。Lovableは、AIの新しいバージョンが出るたびに、壊れたアプリや、利用者が求めた物と違うアプリを作る頻度を測っています。事例によると、この測定は始めた頃から続いています。利用者の多くが自分でコードを読めないからだ、と事例は書いています。
A&Aの考え方
求めた物と違った回数を数える仕組みは、相手が口にしない不満を拾います。新規事業でも、最初の顧客が決まる前からこの回数を書く欄を用意しておくと、2社目以降への提案が早くなります。
A&Aの考え方
この読み方が当てはまりにくい場面もあります。2社は誰でも使えるサービスを作る会社で、公開すれば多くの利用者を一度に見られました。法人向けの新規事業は、1社ずつしか会えません。その時は件数ではなく、仮説から外れた例が何種類出たかを数えます。
A&Aの考え方
A&Aの目安では、3社で同じ外れ方が2回出たら、対象を見直す理由になります。
A&Aの考え方
根拠の限界もあります。2社の記述はAnthropicが公開した顧客事例で、会社側の説明です。独立した検証ではなく、2社の成長を顧客に会った効果として扱うこともできません。4つの欄の記録表とこの目安も、A&Aの仮の道具で、測って確かめた手法ではありません。
まとめ

A&Aの考え方
AIの調査は、会う相手と聞く質問の仮説を作るまでに使います。
A&Aの考え方
使う人の想定は試作を出した後に変わることがあるので、試作を出して会います。
A&Aの考え方
会った結果は、仮説・質問・観測した行動・提案の変更の4つの欄に分けて記録します。
A&Aの考え方
買う意思は、資料を見せる・日程を押さえるなど、相手が動いた行動で見ます。
AIの調査は、会う相手と聞く質問の仮説を作るまでに使います。上司や取締役会に「顧客はいるのか」と聞かれた時に答えになるのは、調べた量ではなく、誰に会い、相手が何をしたかを4つの欄に分けた記録です。
よくある質問
AIの調査だけで、会う前に候補を絞ってもよいですか。
候補を外す判断には使えます。買い手の数が少なく、公開の名簿などで全体をつかめる業界なら、会う前に外すのは妥当です。ただし、残った相手が払うかどうかは、調査では決まりません。
何社に会えば、上司に報告できますか。
決まった社数を示す出典はありません。A&Aは、次に会う3社の名前と、それぞれの外れうる前提が書けた所を、調査を止めて会いに行く区切りとして勧めます。報告では社数より、4つの欄が埋まった行を見せる方が伝わります。
相手の発言は記録しなくてよいですか。
記録します。ただし観測の欄ではなく、質問の欄の答えとして残します。観測の欄には、資料を見せた、日程を押さえたなど、相手がしたことだけを書きます。
出典・編集情報
記事の調査で確認した一次資料です。資料の公開・更新時期と、調査時の確認日を分けて記載しています。
- Lovable helps anyone create software 20x faster with Claude
Anthropic · n.d. (no date shown on page)
確認日 2026-10-22 - Lex streamlines the writing process with Claude
Anthropic · n.d. (no date shown on page)
確認日 2026-10-22 - Do Things that Don't Scale
Paul Graham · 2013-07
確認日 2026-10-22